はじめに
前回の続きで、もう一つのメジャートラブルについて解説します。
新人エンジニアに最初に必ず言うのですが
〇データシートの表紙はコマーシャル(良い事しか書かない)
〇データシートはグラフまで理解する
回路設計に従事している全てのエンジニアが完璧にできているか?と言うと、答えに困るところもあります。
そこで学生さん向けに、FET取り扱い時のメジャートラブルに的を絞って解説したいと思います。
FETのスペック
皆さんの求めるスペックは”何アンペア流せるか?”だと思います。
入手性も良く(共立エレショップさんで買えます)モータドライバを作るのに便利なので愛用しているロームの複合FET(Nch+Pch)SH8MA4のデータシートの表紙です。
連続電流8.5A、パルス電流18Aのモータドライバが作れるのですが、いくつかの条件を満たす必要があります。
表紙のPch:RDS(on)(Max.) 29.6mΩはVGS=-10Vの時で、VGS=-4.5Vなら41.3mΩになります。
以下の様に電力に関する記述には、放熱性が良い0.8mmセラミック基板30mm×30mmに実装した場合と条件付きです。
表紙に記載の性能を出す為には動作条件を整え、上図条件に匹敵する放熱条件を基板上に用意する必要があります。
と言う事で
界隈で起こっているFET取り扱い時のメジャートラブルの原因は放熱設計の不足です。
放熱を行う銅箔パターンについて解説します。
パターンによる放熱
SH8MA4は放熱用パッドがパッケージにありません。
この様な放熱用パッドのないSOP8パッケージは下図の様にドレインが放熱用になっています。
つまり、ドレイン側に放熱パターンを作り込む事でジャンクション温度を安全領域に下げる事ができます。
熱設計
細かいところは省略して、概ねの答えが出せる程度の設計計算を目指します。
必要なのは、皆さんが作りたいモータドライバの連続定格電流とFETのON抵抗です。
FETに発生する電力は W = (モータドライバの連続定格電流)^2 × FETのON抵抗
モータドライバの連続定格電流:3A、SH8MA4のON抵抗:41.3mΩとすると
W =3^2(A) × 0.0413(Ω) = 0.3717(W)
下図より放熱パターンの銅箔面積は8(mm) × 20(mm) = 160(㎟)
銅箔パターンによる放熱については形状によっても異なる為に、色々な指標がありますが、今回は下グラフを使用します。
後述しますが、このグラフのスタートは15.7(㎟)になっています。
グラフよりθJAは74(℃/W)とします。
FETのジャンクション温度は0.3717(W) × 74(℃/W) ≒ 27.5 (℃)
この値は上昇分ですので室温25℃の時には52.5℃になります。
絶対最大定格(これを超えると破壊する)150℃にはかなり余裕があります。
推奨パッドの銅箔面積は0.65 × 1.15 ≒ 0.75(㎟)となります。
グラフの始点15.7(㎟)より遥かに小さく、簡単にFETのジャンクション温度の絶対最大定格を超えてしまいます。
PCBCADのデザインルールによってパッドより太い線が引けないのと、ポリゴンのサーマルONがデフォールトになっている事も相まって、放熱不足になっている例が少なくありません。
FETにて大電流を取り扱う際には、放熱パターンに配慮した設計を心がけましょう。
コラム
データシートの始点・終点(先が無い)には理由があります。
このグラフの場合、”FETの想定アプリケーション(モータドライバ)では最低でも4mm×4mm以上の銅箔パターンは用意しましょう!”と読み取れば良いと思います。
出典:
ロームSH8MA4データシート
TechWeb 熱抵抗データ:実際のデータ例