ドレイン電流による損失
負荷抵抗1Ωとした場合のMOS-FETの損失をグラフにしてみました。
グラフはOFF抵抗無限大、ON抵抗0Ωの理想的MOS-FETモデルです。
OFFからONに遷移する過程は抵抗無限大から徐々に抵抗値が低くなって最終的に0Ωになりますが、この過程がMOS-FETの損失となります。
損失の最大値は25Wに達しています。
皆さんが使用している半田ゴテは20Wが多いのではないでしょうか?
20Wあれば、半田ゴテの金属部の容積が半田を溶かす温度まで上昇可能と言う事です。
半田ゴテのプラグをコンセントに挿した瞬間に半田が溶ける訳ではありません。
半田が溶けるまでには、ある程度時間が必要です。
MOS-FETに25Wの損失(熱損)があっても非常に短い時間なので半田が溶ける程の温度上昇は起こしません。
この辺りの感覚は結構重要ですのでイメージできる様にしておきましょう。
以下グラフの灰色線が作る小山の面積がMOS-FETの主な損失となります。
ゲートドライブ回路のゲート電荷量充電能力(充電時間短縮)を上げれば小山が細るので損失が低減できます。
スイッチング電源の場合はゲート電荷の充放電に必要な電力も全体効率からは無視できないのですが、ホビー用途でモータを回す事にフォーカスすれば、ゲートチャージは完全にONに遷移するまでを考慮すれば良いことになります。
もう少しこの期間に起こっている事をイメージして頂ける様に抵抗と電流の関係をグラフにしました。
損失は ”電流の2乗×抵抗” です。
電流が低くて抵抗が高くても、電流が高くて抵抗が低くても損失は大きくなりません。
つまり電流がそこそこ、抵抗がそこそこある真ん中付近が損失が大きくなります。
グラフの赤線部分が損失最大 5Aの二乗×1Ω=25W になる部分です。
ここが前出の小山の頂上です。
PWM制御の周波数
DCモータのパワーコントロールをPWMで行う場合はPWMの周波数が高いと単位時間当りのON-OFF回数が増えるので損失が大きくなります。
DCモータは1回転に3回電磁石の切り替えを行うので回転数×3より、PWMの周波数が高い必要があります(出力がDCに近似できるほど平滑なら考慮の必要はありません)。
私の使っているFC-130は走行時5000rpm程度なので、5000×3÷60秒=250Hzとなり、ArduinoのPWM周波数980Hzで制御しても問題なく動きます。
ゲートドライブ回路の注意点
マイコンによる制御を行う場合に、リセット期間などのI/Oの状態が不定もしくはオープンの状態においても、ゲート電圧が不定にならない様に設計する必要があります。
必ずOFF状態になる様に考慮しましょう。
MOS-FETは大電流のON-OFFを行うドレイン・ソースと高インピーダンスのゲートが隣り合わせの素子ですので発振させない設計が重要です。
パターン設計では出力部とゲートドライブ部が近づかない様に配慮する必要があります。
パターンはアンテナとなってノイズを伝搬します。
アンテナの効率(この場合は効率が悪くノイズが受信できない方が良い)はノイズ源に近いか、ノイズ源に対して平行か直交かによります。
以下のパターン例では、左側はゲート直近のパターンが出力に接近かつ平行な部分があります。右側はゲート直近のパターンが出力から遠くて平行な部分がありません。
モータと基板の配置を優先すれば左側の様なコネクタ位置が最適になる場合も多々あると思いますし、”L型” 配置の ”工夫した感” も理解できるのですが、可能な限り入力部から出力部を”I型”配置する事をお勧めします。
ゲートには発振防止の抵抗を入れるのですが、パターンレイアウトによって効果が異なります。
前出の通り配線はノイズを伝搬するアンテナでもあります。
下図の上側はゲート直近に抵抗(オレンジ色の四角)を配置したパターンレイアウト、下側はゲートドライブ直近に抵抗を配置したパターンレイアウトです。
途中の配線が受信したノイズを黄色の矢印で表しています。
上側はノイズがゲートに流れ込む時に抵抗によって低減効果が得られますが、下側はノイズが直接ゲートに伝わり、抵抗は全く機能しません。
この様にパターンレイアウトは基板の性能に大きく影響します。
出前授業先で、基板を小さく作れば設計力が高いと言う風潮があったので釘を刺した事がありました。
電流容量にあった配線の太さ、必要な放熱パターン面積や入出力の分離に必要なサイズを見極めずに小さな基板を作れば、必ずトラブルが起こります。
適切な基板サイズを見極める為の要件を理解しましょう。