はじめに
RCJJ2023名古屋 実行委員会より、”二次電池RCJJ2023注意事項_20230219.pdf”がアップされました。
安全な電池の取り扱いについての情報収集・判断・運用・事故にかかわる賠償等の全てがチームに委ねられています。
特に、二次電池の情報収取については、文献の発表時期によって認識が異なり、正しい理解を阻害しますので、容易ではありません。
エンジニア視点としては、ジュニアの大会において”最低限事故を起こさない為の情報提示”が行われない事が残念に思えましたので、ブログにて情報提示することにしました。
二次電池の選択
結論としては、ニッケル水素(Ni-MH) or リン酸鉄リチウム(Li-Fe)の2択です。
ロボカップジュニアのロボットに使いやすいサイズとしては以下があります。
京商 ニッケル水素バッテリー 7.2V-1600mAh
https://rc.kyosho.com/ja/71351.html
タミヤ LF1100-6.6V レーシングパック(M)
https://www.tamiya.com/japan/products/55105/index.html
近藤科学 ROBOパワーセル F2-850タイプ (Li-fe)
https://kondo-robot.com/product/life_f2_850
ホビー用のLi-Poバッテリーはドローン用、ラジコンカー用を問わず、ESCと言うモーターコントローラによってバッテリーの低電圧保護(過放電)、短絡、過電流保護がされており、動作時の最低限の保護はされています。
ロボット用のモータードライバにはこの機能がないのでLi-Poバッテリーの使用は極めて危険です。
充電に際しては、ホビー用のLi-Poバッテリーには温度センサが付いていない為、充電設定が正しくても火災に至る可能性があります。
バッテリーの温度上昇を検知した時点で充電中止する機能があれば、事例1、2は火災に至る可能性の低減、事例3、4は火災を防げた案件と思われます。
温度センサの付いていないLi-Poバッテリーを充電する事は、危険と隣り合わせと認識して下さい。
詳細な技術情報については、記事にしておりますので以下御参照下さい。
リチウムイオンバッテリーについて - 隠居エンジニアのものづくり (hatenablog.com)
強力なロボットを作る為に、出力の大きいモーターを搭載したい場合であっても、前回の6V系モーターを使う場合においては、公称電圧ニッケル水素7.2Vに対してLi-Po 7.4Vは優位な差ではありませんし、放電特性が平坦なニッケル水素の方が容量の半分以降は電圧が高くなります。
そもそも危険を冒してLi-Poを選択する理由はありません。
定格を守る!
ニッケル水素(Ni-MH)、 リン酸鉄リチウム(Li-Fe)には、Li-Poの様に火炎を噴き上げたり、爆発する故障モードはありませんが、公称容量の20倍以上の大電流を取り出せる性能があり、配線や基板を焼損させる能力を有します。
この焼損事故を防ぐには定格を守る事が重要です。
”定格”とは、電気機器を安全に使用する為の使用制限です。
先ず、みなさんが使用しているバッテリー、配線、コネクタ、モータドライバなどの定格を確認して下さい。
これらの定格を超えない様にロボットが仕上がっている事が、焼損事故防止の第一歩です。
定格確認の具体例
実際のロボットを例に説明します。
〇XHコネクタ(TJ3などロボットキットに使用されている部品)
定格電流:3A (AWG#22使用時)
〇AWG#22被覆電線
許容電流:7A
〇VHコネクタ
定格電流:10A (AWG#16使用時)
〇AWG#16被覆電線
許容電流:22A
〇クローラー用ESC(モータドライバ基板の代わりに使用しています)
定格電流:20A
〇過放電保護回路(自作基板)
バッテリー用VHコネクタ使用の為、定格電流:10A
電源分配用XHコネクタ使用の為、定格電流:3A
〇マブチRC-260RAモータ(遊星ギヤーボックスセットのRC-260タイプは3Vの為換装)
公称電圧:6V
停動電流:4.2A
〇ROBOパワーセル F2-850タイプ (Li-fe)
VHコネクタ使用の為、定格電流:10A(C-Rate:20C 17A)
この時点にてRC-260RAモータの停動電流4.2AはXHコネクタの定格電流3Aを超えているのでNGです。
対策の方法としては
① 停動電流3A以下のモーターに変更する。
② コネクタによるモーター交換のメンテナンス性を諦めて、クローラー用ESCのモーター用配線をモーターに直接半田付けを行い、過放電保護回路のコネクタをXHからXVコネクタに変更する。
③ モーターの電流を定格値以下で動作させる為の制限を加える。
・ESCのプログラム機能による過電流保護値を3Aに設定する。
・機構設計によってモーターの負荷を制限し、3A以下の電流を保証する。
(ロボットの必要トルク計算とギヤ比選定を行う機構設計技術がある場合に限ります。壁にぶつかってフルスロットル前進を続けるなど制御不能時に、起こり得る最悪状態において3A以下に電流制限可能なキヤ比を選定し、完成状態にて設計通りである事を電流測定等で確認する。)
このロボットは必要トルク計算とギヤ比選定によってモーター電流を1.4Aに制限しています。
これで全ての電流経路の定格確認ができました。
抵抗の電圧降下を観測する事で電流測定ができます。
以下の電流測定治具にてロボットの最大消費電流を測定し、ギヤ比が適切であることを確認しました。
(電圧降下分実際より印加電圧が下がるので、測定結果の補正は必要です)
ヒューズの位置
ロボットの組立に際して”うっかり”配線を挟んだまま締め付けてしまったり、短絡の危険は様々です。
これらは定格を守っていても、定格を超える電流が発生するリスクとして存在します。
この状態に陥った時に、短時間で電流を遮断する為にヒューズが必要です。
ヒューズの挿入位置は下図の通り、バッテリーの直近に付加する必要があります。
ヒューズ選定
溶断時間に関する特性表が提示されているヒューズを購入する事が前提となります。
ここでは、バッテリーが定格電流を超える過電流状態に陥った場合に遮断する目的にて選定します。
選定手順1:取扱説明書・銘版などからバッテリーの放電レート(連続定格)を確認する。
ROBOパワーセル F2-850タイプ (Li-fe)の場合、C-Rate:20Cと記載されており
850mAh × 20 = 17A となります。
選定手順2:短絡電流のジュール損失による発熱によって配線や基板の焼損を防ぐ為に溶断時間を1秒とします。
ヒューズの特性表にて溶断時間1(S)と溶断電流17(A)の交点に近い曲線である10Aが適切なヒューズとなります。
出典:
溶断時間・溶断電流特性表 KOA CCF1N データシート