はじめに(アクセス解析でブログトップが読まれていない様子なので)
ロボカップジュニアのルールは市販されている部品の使用はOKですので、最先端・高額な部品の使用はウエルカムです。
世界大会での技術評価も”如何に枯れた技術(安価)を組み合わせて性能を出すか”よりも”如何に最先端の技術を使いこなしているか”の方が受けが良い様に感じます。
ジュニアの大会でコスト無制限は如何なものかとの声もありますが、共通プラットフォームの大会などが他に沢山あるので、”多様性”の意味合いでRCJの存在意義があると思います。
機体強度をそれほど必要としないレスキューチャレンジのチームがジュラルミン削り出しの部品を多用してたのですが、理由は”素敵性能が高い”との事でした。
モータが焼ける程の電流が流れる機体でマイコンの低消費電力化に挑むチームとか、壊れる事で機能する機構とか技術屋の常識では思いつかない”凄い世界”がそこにはあります。”その手があったかー”と発想に感動したロボットも沢山あります。
とにかくRCJは”やりたいことやったもん勝ち”の自由なロボットコンテストです。
ロボカップジュニアに出会った2007年の世界大会推薦ロボットはレゴマインドストームRCX(第1世代)などのロボットキットが主流でしたが、現在はPCBCAD、3DCADを駆使した自作ロボットが主流となりました。
とても素晴らしい事ですが”この努力の結晶”を見て諦めてしまう子供たちや親御さんが居ます。
親御さんがチームメンバーに”ロボット一台作るのに必要な予算は?”と質問して答えに驚く姿を目にする事も珍しくありません。
新規参入者が減ると近い将来に大会自体が衰退する可能性があります。
とても貴重な”何でもあり”のロボカップジュニアが継続し続けるには裾野を広げる努力も必要だと思っています。
低コストで試合ができる(ワンサイドゲームにならずにそこそこ抵抗できる)ロボットが作れることを示すのもギャップを埋める方法の一つだと考えています。
機体コンセプト
安全、安価、簡単、そこそこの性能(全く試合にならないと楽しくないので)を目指す事にしました。
これを実現する柱となるのは
〇枯れた技術を組み合わせて性能を出す
〇主流の機体・戦術の欠点を突く
〇ルールを熟読して新しい戦術を組み立てる
〇機体材料はアクリル板
配線やネジ類を省いた大雑把な主要購入部品のコスト(オープン仕様)はこんな感じです(ライトウエイトの場合はパルスボールセンサ4個追加する必要があるので6千円程高くなります)。
使用アクリル板はA4サイズ2枚程度です。
主流の機体
現在の主流はオムニホイール使用の全方位移動ロボットです。
裏をかくには想定する相手ロボットの仕様が画一的なのは好都合です。
サマーキャンプ等のプレゼン資料には必ず入れる2つのネタがあります。
一つは”リアルサッカーの戦術を研究した事がありますか?”
2台のロボットでフォーメーションやパス回しは現実的ではありませんが、フィジカルの強さやトリックなどの個人技でゴールに切り込むブラジルスタイルが参考になるかも知れません。
もう一つは以下の式を入れています。
全方位移動ロボット > 2軸駆動ロボット
もう少し正確に書くと
ベテランが作った全方位移動ロボット > 初心者が作った2軸駆動ロボット
ベテランが初心者を上回るのは当たり前です。
これでは全方位移動ロボットが優位と言えません。
ベテランが作った全方位移動ロボット vs ベテランが作った2軸駆動ロボット
の結果を見たことがありますか?
会場の答えは ”この組み合わせの試合を見たことがありません” です。
と言う事で”2軸駆動ロボット”を製作して”全方位移動ロボット”の弱点を突くことにします。
アクリル板でギヤ1個3円程度で製作できるので、ギヤを多用して6輪車にしました。
6輪にする事でタイヤの接地面積での優位を確保します。
タイヤ選択も自由度が高いので、カーペットとのグリップを良くする為に、ラジコン用の中空ゴムタイヤから幅広でサイズの合うものを検索します。
レスキューチャレンジの技術ですが、超信地旋回時に回転半径の異なるタイヤ間で喧嘩しない様に前輪をオムニホイールにしました。
これにより滑らかで高速な旋回が可能となります。
回転軸とロボットの中心軸がオフセットさせることができるのも2軸駆動の利点です。
もちろんオフセットしている事も戦術に関係していますので、タイヤの間隔を不均等にして設計側からも積極的にオフセット量が大きくなる様にしています。
機体は全てアクリル板をレーザー加工&接着で組み立てています。
設計・製作ノウハウはこちら↓
レーザー加工機の使い方 その1 (準備編) - 隠居エンジニアのものづくり
レーザー加工機の使い方 その2 (ポケット加工編・オムニホイールの製作) - 隠居エンジニアのものづくり
レーザー加工機の使い方 その3 (立体構造部品編・ドリブラーの製作) - 隠居エンジニアのものづくり
レーザー加工機の使い方 その4 (立体構造部品編・皿もみ) - 隠居エンジニアのものづくり
レーザー加工機の使い方 その5 (平ギヤの組み方・効率Up) - 隠居エンジニアのものづくり
全方位移動ロボットの弱点
以前の記事に全方位カメラは全方位が見える事以外はデメリットだらけ的コメントをしましたが、全方位移動(オムニシステム)ロボットについても同じです。
全方位移動を手にした代償(トレードオフ)は結構大きいのです。
最大の欠点は効率の悪さです。
オムニホイールの場合、小ローラーでも損失があります。
意外かも知れませんがウォームギヤや台形ネジなどの”すべりねじ伝動機構”の効率は20%~30%程度で、小ローラは”すべり軸受”に分類されます。
すべりねじ伝動機構ほど効率は悪くはありませんが、ラジアル荷重・スラスト荷重共にかかる事を考慮すると損失は小さくないと考えます。
これに加えて4軸オムニなら前進時の推力は、軸出力の1/√2になります。
更にタイヤが路面を捉える力に直結する接地面積が小さい、振動(特にシングル)による抜荷重が加わります。
押し合いに持ち込めば試合の主導権を取れそうです。
戦術の骨子(2021ルール)
押し合いに持ち込んで試合の主導権を得るにはボールの取り合いに勝つことが必要です。
キックオフで確実にボールを取るには、守備側でボールまでの距離300mmを一瞬で詰める必要があります。
ルールでは守備側は攻撃側がロボットの配置を決定した後にロボットを配置できるので0-300mm(自動車の0-100m性能みたいな感じ)タイムが攻撃側がボールを移動し始めるより短ければ優位を保てます。
相手がドリブラー搭載機の場合に初期位置方向と違う向きにフェイントを仕掛けるのにどの程度の時間が必要かを想定します。
ボールに接触しない位置からスタートなので少なからず前進が必要です。
ボールキャッチセンサが反応して直後はボールが吸い込まれた勢いで跳ね返ったり、ボールの慣性モーメントが不十分なので頭を振るとボールがこぼれるリスクがあります。
低速で前進しながら0.3秒程度は姿勢を保つ(回頭しない)必要があるでしょう。
要するに0-300mm 0.3秒の加速性重視(高ギヤ比)の設計にすれば良い事になります。
ボール補足後の高トルクにも繋がる都合の良い仕様となります。
流れとしては
①キックオフで確実にボールを補足
②6輪駆動でプッシングにならないエリアまでゴールに向かって相手フォワード機ごと押し込む
これにより相手キーパー機は味方(相手フォワード機)に押されてアウトオブバウンズになるか、”同じチームのロボット2 台がペナルティエリアに一部でも侵入した場合、一方のロボットを一番遠くの空いている中立点に速やかに移動させます。”のルールにより1対1の状態になります。(もし審判がこの処理を行わない場合は戦術スイッチを切り替えて、この団子状態を利用してマルセイユルーレット機動でオープンスペースを作ります)
③保持力特化型ドリブラーによってボールをキープしてバックミラーでゴールのオープンスペースを確認
④フェイント動作&ロータ反転シュートでミドルシュート(プッシングにならない距離)& エスコート前進
今回の機体はオープン両対応に設計していますが、オープンでも戦術に変わりわありません。
ドリブラーの性能
押し合いが圧倒的でもボールをキープできなければ攻撃に繋がりません。
ドリブラーの性能が重要になります。
ドリブラーの性能と言っても色々です。
〇安全性(取り合いでボールが静止した時にボールを削ったり、人を傷付たりしない)
〇補足力(お手玉せずに確実にローラが捉えることができる)
〇保持力(姿勢を変えても外れない、相手との取り合いに負けない)
ここでトレードオフが生じるのは補足力と保持力です。
保持力を上げるにはボールの自由度(特に左右)を極力なくす必要がありますのでボールと同じ形状で受けるのが良いのですが、完全にボールの中心を捉えてアプローチしなければお手玉してしまうので補足力は犠牲になります。
補足力を上げる為に間口を広くすると、左右にボールが転がった時に勢いで外れる可能性が高くなり保持力は犠牲になります。
ドリブラーの設計
先ず安全性の確保の為に低速回転でボール保持する技術の確立は大前提として、保持力特化型でも、お手玉しない”正確なボール位置掌握と制御”がデーマになります。
blackbox-crusher.hatenablog.com
9 時〜17 時 限定公開は終了致しました。
パルスボールセンサを円形に多数配置してもボールの方位が正しく得られない理由について御理解頂けたと思います。
方位を正確に取得する方法については是非お試し下さい。
次回オープン大会参加の折には、また限定公開予定です。