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ロボカップジュニアの二次電池安全対策

はじめに

RCJJ2023名古屋 実行委員会より、”二次電池RCJJ2023注意事項_20230219.pdf”がアップされました。

安全な電池の取り扱いについての情報収集・判断・運用・事故にかかわる賠償等の全てがチームに委ねられています。

特に、二次電池の情報収取については、文献の発表時期によって認識が異なり、正しい理解を阻害しますので、容易ではありません。

エンジニア視点としては、ジュニアの大会において”最低限事故を起こさない為の情報提示”が行われない事が残念に思えましたので、ブログにて情報提示することにしました。

 

二次電池の選択

結論としては、ニッケル水素(Ni-MH or リン酸鉄リチウム(Li-Fe)の2択です。

ロボカップジュニアのロボットに使いやすいサイズとしては以下があります。

京商 ニッケル水素バッテリー 7.2V-1600mAh
  https://rc.kyosho.com/ja/71351.html

タミヤ LF1100-6.6V レーシングパック(M)
  https://www.tamiya.com/japan/products/55105/index.html

近藤科学 ROBOパワーセル F2-850タイプ (Li-fe)
  https://kondo-robot.com/product/life_f2_850

 

ホビー用のLi-Poバッテリーはドローン用、ラジコンカー用を問わず、ESCと言うモーターコントローラによってバッテリーの低電圧保護(過放電)、短絡、過電流保護がされており、動作時の最低限の保護はされています。

ロボット用のモータードライバにはこの機能がないのでLi-Poバッテリーの使用は極めて危険です。

 

充電に際しては、ホビー用のLi-Poバッテリーには温度センサが付いていない為、充電設定が正しくても火災に至る可能性があります。

平成26年版火災の実態 (tokyo.lg.jp)

バッテリーの温度上昇を検知した時点で充電中止する機能があれば、事例1、2は火災に至る可能性の低減、事例3、4は火災を防げた案件と思われます。

温度センサの付いていないLi-Poバッテリーを充電する事は、危険と隣り合わせと認識して下さい。

 

詳細な技術情報については、記事にしておりますので以下御参照下さい。

リチウムイオンバッテリーについて - 隠居エンジニアのものづくり (hatenablog.com)

 

強力なロボットを作る為に、出力の大きいモーターを搭載したい場合であっても、前回の6V系モーターを使う場合においては、公称電圧ニッケル水素7.2Vに対してLi-Po 7.4Vは優位な差ではありませんし、放電特性が平坦なニッケル水素の方が容量の半分以降は電圧が高くなります。

そもそも危険を冒してLi-Poを選択する理由はありません。

 

定格を守る!

ニッケル水素(Ni-MH)、 リン酸鉄リチウム(Li-Fe)には、Li-Poの様に火炎を噴き上げたり、爆発する故障モードはありませんが、公称容量の20倍以上の大電流を取り出せる性能があり、配線や基板を焼損させる能力を有します。

この焼損事故を防ぐには定格を守る事が重要です。

”定格”とは、電気機器を安全に使用する為の使用制限です。

先ず、みなさんが使用しているバッテリー、配線、コネクタ、モータドライバなどの定格を確認して下さい。

これらの定格を超えない様にロボットが仕上がっている事が、焼損事故防止の第一歩です。

 

定格確認の具体例

実際のロボットを例に説明します。

 

〇XHコネクタ(TJ3などロボットキットに使用されている部品) 

   定格電流:3A (AWG#22使用時)

〇AWG#22被覆電線

   許容電流:7A

〇VHコネクタ

   定格電流:10A (AWG#16使用時)

〇AWG#16被覆電線

   許容電流:22A

クローラー用ESC(モータドライバ基板の代わりに使用しています)

   定格電流:20A

〇過放電保護回路(自作基板)

   バッテリー用VHコネクタ使用の為、定格電流:10A

   電源分配用XHコネクタ使用の為、定格電流:3A

〇マブチRC-260RAモータ(遊星ギヤーボックスセットのRC-260タイプは3Vの為換装)

   公称電圧:6V

   停動電流:4.2A

〇ROBOパワーセル F2-850タイプ (Li-fe)

   VHコネクタ使用の為、定格電流:10A(C-Rate:20C 17A

定格の把握

この時点にてRC-260RAモータの停動電流4.2AはXHコネクタの定格電流3Aを超えているのでNGです。

対策の方法としては

① 停動電流3A以下のモーターに変更する。

② コネクタによるモーター交換のメンテナンス性を諦めて、クローラー用ESCのモーター用配線をモーターに直接半田付けを行い、過放電保護回路のコネクタをXHからXVコネクタに変更する。

③ モーターの電流を定格値以下で動作させる為の制限を加える。

・ESCのプログラム機能による過電流保護値を3Aに設定する。

・機構設計によってモーターの負荷を制限し、3A以下の電流を保証する。

(ロボットの必要トルク計算とギヤ比選定を行う機構設計技術がある場合に限ります。壁にぶつかってフルスロットル前進を続けるなど制御不能時に、起こり得る最悪状態において3A以下に電流制限可能なキヤ比を選定し、完成状態にて設計通りである事を電流測定等で確認する。)

 

このロボットは必要トルク計算とギヤ比選定によってモーター電流を1.4Aに制限しています。

最大電流の確認

これで全ての電流経路の定格確認ができました。

抵抗の電圧降下を観測する事で電流測定ができます。

以下の電流測定治具にてロボットの最大消費電流を測定し、ギヤ比が適切であることを確認しました。

(電圧降下分実際より印加電圧が下がるので、測定結果の補正は必要です)

電流測定治具

ヒューズの位置

ロボットの組立に際して”うっかり”配線を挟んだまま締め付けてしまったり、短絡の危険は様々です。

これらは定格を守っていても、定格を超える電流が発生するリスクとして存在します。

この状態に陥った時に、短時間で電流を遮断する為にヒューズが必要です。

ヒューズの挿入位置は下図の通り、バッテリーの直近に付加する必要があります。

ヒューズの位置

ヒューズ選定

溶断時間に関する特性表が提示されているヒューズを購入する事が前提となります。

ここでは、バッテリーが定格電流を超える過電流状態に陥った場合に遮断する目的にて選定します。

 

選定手順1:取扱説明書・銘版などからバッテリーの放電レート(連続定格)を確認する。

ROBOパワーセル F2-850タイプ (Li-fe)の場合、C-Rate:20Cと記載されており

850mAh × 20 = 17A となります。

 

選定手順2:短絡電流のジュール損失による発熱によって配線や基板の焼損を防ぐ為に溶断時間を1秒とします。

ヒューズの特性表にて溶断時間1(S)と溶断電流17(A)の交点に近い曲線である10Aが適切なヒューズとなります。

 

出典:

溶断時間・溶断電流特性表 KOA CCF1N データシート

 

 

6Vモーターの勧め

モータを電圧で選んでいませんか?

パワーは電力値(W)で表示されます。

モータは電圧を上げれば回転数が上がりますから、電圧が高い方がパワーがある様な錯覚に陥りますが、ロボットの必要とするパワーを基準にモーター選択を行う場合はラジコン用の6Vモーターの方が、種類豊富、手頃な価格で入手性も良好です。

Li-Fe 6.6V 850mAh + 1/16スケール電動ラジコンカー用モータ

”百聞は一見に如かず”と言うことで公称電圧6Vのマブチモーター(1200円)を近藤科学さんのROBOパワーセル F2-850タイプ(Li-Fe 6.6V 850mAh  55g)と組み合わせて足回りを設計した結果がこの動画(もちろん早回しとかは無しですよ)です。

2m/sで移動でき、静止状態から0.3秒で300mmに到達し、強力な遠心力シュートを決めれます。

有名なマクソンRE-16は12V・4.5W、6VのマブチモーターはRC-260・15W、RC-280・24W、RK-370・24Wですので、動画のロボットのパワーに不思議はありません。

マブチモーターは巻き線の種類が豊富にあるので同じ型番でも出力の異なるバリエーションがあります。

因みに動画のモーターは16Wですが、トルクが大きすぎてキックオフ時に前部が持ち上がってボールを見失うので、実際にはフルパワーでは使えません。

ソフト的にパワーの範囲制限をするのは、制御の点で良くないので7~10W程度が最適だと思います。

 

電流が大きい?

電圧(V) × 電流(A) = 電力(W) ですので、同じ電力のモーターであれば公称電圧が低いモーターの方が電流が大きくなるのは道理です。

なので”モーターの電圧を下げるのは電流が大きくなって危険”と言うのは、早計です。

動画のロボットはラインを検知してからの制動ではアウトオブバウンズを避けられない速度・キックオフでフルスロットルにすると前部が持ち上がってしまうなど、オーバースペックな状態ですが、フルスロットル2m/sで走行中1.7A、押し合い状態2.6Aです。

入門用ロボットキットに使用されているAWG22 許容電流7Aで配線してますが、試合中に許容電流をオーバーするシーンはありません。

適正なスペックでは、これ以下になります。

少なくとも”危険”な電流には当たらないでしょう。

モーター焼損の原因

実際にモーターや配線の焼損は発生していますが、原因は必要トルク計算、モーター性能線図による適正ギヤ比選定などの機構設計要素の理解が無い事です。

不適切なギヤ比にてロボットを動作させると以下の様になります。

モーター性能線図

水色の垂直線は適切なギヤ比選定を行った結果、20:1を選定した場合です。
赤色の垂直線は、多くの方がイメージしている”ギヤ比を小さくすれば早くなる”理論で4:1にした場合を想定しています。

確かに4:1にすればギヤ出力軸回転数のスピードは約1.2倍になりますが、電流は約4.5倍になり消費電力は20Wの半田ゴテ2個分以上になります。
4:1の場合は、押し合いなどの負荷が増える状況で直ぐに停動電流になり焼損のリスクが高い状態となります。

またトルクが不足するのでキックオフでのスタートダッシュや制御への追従は20:1より遅い事を付け加えておきます。


私が今までに遭遇した焼損案件は100%この不適切なモーター・キヤ比選定が原因でした。

大事な試合中に故障しない為にも、モーター・ギヤ比の選定が正しい状態にあるかを確認する事をお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロボカップジュニアサッカー足回りの設計例

はじめに

OYA-G 2023モデルの設計計算書を基に、足回りの設計手順を紹介します。

仕様策定からギヤ比の選定までの流れについて解説します。

ギヤードモータは以前紹介したタミヤ 遊星ギヤーボックスセットを使用します。

ロボカップジュニア サッカーライトウエイトのモータにいて - 隠居エンジニアのものづくり (hatenablog.com)

仕様策定

得点を競う競技ですので、先ず戦術を決める必要があります。

車両型ロボットの特性を理解し、ルールの理解(熟読)、好成績チームの戦術研究などを基に自分たちのチームの戦術を決定し、戦術を実行する為に最適なロボットを設計します。

 

車両型ロボットの特性

車両型ロボットの特性については合宿やオープン大会など、機会がある度にプレゼンしています。

その中で繰り返し伝えているのは ”オムニ型 > 4輪駆動型 ?” です。

もう少し修飾すると ”上級者のオムニ型 > 初心者の4輪駆動型” が現状の正確な状況把握ですし、これについては異論はありません。

初心者を卒業すると皆さんオムニ型に移行するので”上級者のオムニ型”と”上級者の4輪駆動型”の対戦は前例がないと思います。

 

オムニ型・四輪駆動型の比較

・推進力の伝達効率(4輪オムニ型)

フリーローラーの伝達効率は0.5(ウォームギヤなど”すべり”を前提にした機構の効率は約0.4~0.5)と仮定します。

  オムニホイール ゴムタイヤ
進行方向推進力 0.7 1
フリーローラー摩擦損失 0.5 -
総合効率 0.4 1

相手と押し合う状況では進行方向は前になります。

この時、オムニホイールは進行方向に対して45度の傾きを持っていますので進行方向への推進力は約0.7倍になります。

更にフリーローラーの摩擦損失を経て地面に推進力を伝えます。

この為、総合効率ではゴムタイヤの半分以下になります。

オムニ型は真横に動けるなど自由な機動力と引き換えに推進力の効率が犠牲になっていると言えます。

 

・グリップ性能

加速時の路面(カーペット)への食い付き、制動距離はタイヤの性能に依存します。

グリップ性能に関して、学校で習った物理とは矛盾する”タイヤの太さとの関係”について解説をしておきます。

” 摩擦力 = 摩擦係数×垂直抗力 ” この式にはタイヤが地面に触れている面積(接地面積)が含まれないので、タイヤがカミソリの様に細くても、F1などのレーシングカーの様に太くてもタイヤの材料が同じなら摩擦力は変わらない事になります。

つまり、この式は摩擦係数がタイヤの単位面積当たりの荷重に依存しない前提になっていますが、実際には荷重依存性があります。

摩擦係数の荷重依存性

上図の通り、接地面積を広げて材料への単位面積当たりの荷重を低減すると摩擦係数が向上します。

オムニホイールとゴムタイヤの接地面積(同じ重量での比較)

この接地面積においてもゴムタイヤはオムニホイールに対してアドバンテージがあります。

つまり、4輪駆動型は押し合いでオムニ型を圧倒できるポテンシャルを秘めています。

ルール

必ずキックオフを経て試合が展開します。

不利?な守備側でもボールまでの距離は30cmです。

常に試合の主導権を得るには、キックオフで確実にボールを捉える必要があります。

次に捉えたボールを相手に取られなければ主導権を握り続けることができます。

この状態がブレークするのは”進行の停止”と判断された時だけです。

 

現在主流の戦術研究

講習会の資料にするために、試合中のロボットの動きを録画させて頂いた事があります。(このチームは、この後世界大会推薦され世界チャンピオンになりました)

進行の停止から中立点に置きなおされたボールを如何に早く補足するかが戦術の骨子でしたが、現在でも変わりないと思います。

動画から中立点にボールが置きなおされた瞬間のボールとロボットの距離を測定してデータにしたのが以下のグラフです。

中立点のボールとロボットの距離 ( 縦軸:距離(cm) 横軸:置きなおし数 )

1試合に40回進行の停止による中立点へのボールの置きなおしが発生していることが分かります。

”中立点に置きなおされたボールを素早く補足したロボットが試合を制する”と言う戦術の裏付けでもあります。

これを頻度にしたのが以下のグラフです。

頻度( 縦軸:回数  横軸:中立点とロボットの距離(cm) )

中立点へのボールの置きなおしが発生した時のロボットの移動距離30cm以内が75%を占めている事がわかります。

つまり加速性能重視の設計が有利と言えます。

 

戦術

リアルサッカーに習って、守備側でも確実にキックオフを制して、相手ロボットを2台纏めて押し返すフィジカルの強さと、可憐なボディフェイントからのミドルシュートでゴールすることを目指します。

これは、審判に楽をして頂ける戦術でもあります(プッシングにならない距離からのシュートなので、キックオフのコールからゴールのコールまで審判の介入はないはずです)。

 

ロボットの要求仕様は

〇30cm先に最短時間で到達する足回り(4輪駆動型)

〇キックオフで確実にボールを捉える制御

〇捉えたボールを相手に取られない保持力特化型ドリブラー

〇膠着状態(押し合いでの進行の停止)にならない圧倒的グリップ性能(4輪駆動型)

ドリブラーでのシュート

 

ロボカップジュニアに出会った2007年から私が最適解と考えている戦術ですが、ルール改定でキーパーの自ゴール内へのアウトオブバウンズが加わった事で、更に戦術の優位性が上がったと思います。

因みに、知っている限り、この戦術を採用したチームはありません。

(4輪駆動型を採用するも途中で断念してジャパンオープン選抜大会にはオムニ型に戻したチームはありました。これは採用チームとして数えていません。)

機会がある度に解説している割には、この戦術にチャレンジするチームが現れないので ”この戦術に興味がない理由” を聞いたのですが ”勝っているチームの戦術と違うから” との事、アイデアコンテストとしてはちょっと残念な理由です。

 

足回りの設計

駆動方式

4輪駆動型を選択します。

更なる接地荷重の低減を目指して、6輪駆動にて設計します。

可憐なボディフェイントの成功率を上げる為に前輪のみオムニホイールを採用(旋回性向上の為)します。

このオムニホイールも接地荷重の低減を目指して、トリプルにて設計します。

 

トップスピード・加速性能の設定

停止状態から30cm先のボールまで瞬時に移動する事に特化します。

その後の移動は自ロボットのペースで良いので、加速性能”極ぶり”でトップスピードは求めません。

キックオフと同時に横に蹴り出すにしてもドリブラで補足してドリブルで逃げるにしても、相手ロボットは多少は前進する必要があります。

キックオフ0.3秒後に20cm以上前進できれば確実にボール補足できると仮定すると

トップスピード0.5m/s(遅い部類に入ると思います)、トップスピードまでの加速時間0.1sにてロボットの必要トルクを計算します。

必要トルク設計計算書

ギャードモータ選定

必要トルクを満たす仕様のギヤードモータを選定するのですが、今回はタミヤ 遊星ギヤーボックスセットを用いるのを前提としていますので、4:1、5:1、16:1、20:1、25:1、80:1、100:1、400:1の中からギヤ比の選択を行います。

 

モータ仕様の推定(タミヤ製品など4パラメータがない場合)

モータの仕様は無負荷回転数、停動トルク、無負荷電流、停動電流で表されるのですが、タミヤ 遊星ギヤーボックスセット添付の説明書ではRC-260   適正電圧 3V、適正負荷 15gf・cm、適正負荷回転数 10500rpm、消費電流 1A    と記載されています(ミニ四駆用チューンモータなどタミヤ製モータに多い表記です)。

適正負荷で使って欲しいと言うメッセージだと思います。

しかしながら設計計算には前出の4パラメータが必須ですので設計計算書を用いてモータの仕様を推定します。

設計計算書によるモータパラメータ推定

この計算結果(適正電圧3V)にロボットに使用するバッテリーの電圧6.6V(電圧が低いと不人気のLi-Fe 2セル)を比例計算すると

となります。

この値にてギヤ比の検討を行います。

 

DCモータの適正電圧を超える電圧で使用する時の留意点

モータの焼損原因は主に巻き線の温度上昇による絶縁破壊(ポリエステルやエナメルなどの被覆が焼損して巻き線が絶縁を失う)です。

温度上昇は"巻き線抵抗×電流の2乗"にて発生する熱によるのでモータの負荷が軽くなるように設計する必要があります。

具体的には適正電圧時の停動電流3100mAを絶対に超えない様に設計する事が大前提です。

下図の効率曲線(紫色の線)の頂点53%付近(最大効率)を狙って設計できればベストです。

ギヤ比25:1の特性

試合中に起こる最大負荷の想定

イメージし易い様に、最大負荷状態をロボットの重量換算で考えます。

相手ロボットと押し合うので、相手ロボット2台を纏めて押す場合を考えます。

2台担いで移動するイメージで自重の3倍、相手ロボットもこちらのロボットを押す推進力があるので更に1台分の負荷があると仮定します。

4倍の負荷としてギャードモータ必要トルク計算シートの”重量”に4.4kgを入力してギヤ比と電流の関係をグラフにします。

ギヤ比・電流特性

ギヤ比4:1、5:1、16:1、20:1、25:1は負荷4倍の時に3100mAを超えてNGとなります。

次にトップスピード0.5m/sに必要な回転数208rpm以上の条件に400:1がNGとなり、80:1と100:1が候補となります。

私のタミヤ 遊星ギヤーボックスセットが80:1で組立済みですので今回は時短優先で80:1とします。

OYA-G 2023モデルの足回り

 

 

MOS-FETのしくみ(損失)

ドレイン電流による損失

負荷抵抗1Ωとした場合のMOS-FETの損失をグラフにしてみました。

グラフはOFF抵抗無限大、ON抵抗0Ωの理想的MOS-FETモデルです。

OFFからONに遷移する過程は抵抗無限大から徐々に抵抗値が低くなって最終的に0Ωになりますが、この過程がMOS-FETの損失となります。

損失の最大値は25Wに達しています。

皆さんが使用している半田ゴテは20Wが多いのではないでしょうか?

20Wあれば、半田ゴテの金属部の容積が半田を溶かす温度まで上昇可能と言う事です。

半田ゴテのプラグをコンセントに挿した瞬間に半田が溶ける訳ではありません。

半田が溶けるまでには、ある程度時間が必要です。

MOS-FETに25Wの損失(熱損)があっても非常に短い時間なので半田が溶ける程の温度上昇は起こしません。

この辺りの感覚は結構重要ですのでイメージできる様にしておきましょう。

以下グラフの灰色線が作る小山の面積がMOS-FETの主な損失となります。

ゲートドライブ回路のゲート電荷量充電能力(充電時間短縮)を上げれば小山が細るので損失が低減できます。

スイッチング電源の場合はゲート電荷の充放電に必要な電力も全体効率からは無視できないのですが、ホビー用途でモータを回す事にフォーカスすれば、ゲートチャージは完全にONに遷移するまでを考慮すれば良いことになります。

 

青色:ゲート電圧  橙色:ドレイン電圧(OFF→ON) 灰色:MOS-FETの損失

もう少しこの期間に起こっている事をイメージして頂ける様に抵抗と電流の関係をグラフにしました。

抵抗・電流特性

損失は ”電流の2乗×抵抗” です。
電流が低くて抵抗が高くても、電流が高くて抵抗が低くても損失は大きくなりません。
つまり電流がそこそこ、抵抗がそこそこある真ん中付近が損失が大きくなります。
グラフの赤線部分が損失最大 5Aの二乗×1Ω=25W になる部分です。
ここが前出の小山の頂上です。

 

PWM制御の周波数

DCモータのパワーコントロールをPWMで行う場合はPWMの周波数が高いと単位時間当りのON-OFF回数が増えるので損失が大きくなります。

DCモータは1回転に3回電磁石の切り替えを行うので回転数×3より、PWMの周波数が高い必要があります(出力がDCに近似できるほど平滑なら考慮の必要はありません)。

私の使っているFC-130は走行時5000rpm程度なので、5000×3÷60秒=250Hzとなり、ArduinoのPWM周波数980Hzで制御しても問題なく動きます。

 

ゲートドライブ回路の注意点

マイコンによる制御を行う場合に、リセット期間などのI/Oの状態が不定もしくはオープンの状態においても、ゲート電圧が不定にならない様に設計する必要があります。

必ずOFF状態になる様に考慮しましょう。

MOS-FETは大電流のON-OFFを行うドレイン・ソースと高インピーダンスのゲートが隣り合わせの素子ですので発振させない設計が重要です。

パターン設計では出力部とゲートドライブ部が近づかない様に配慮する必要があります。

パターンはアンテナとなってノイズを伝搬します。

アンテナの効率(この場合は効率が悪くノイズが受信できない方が良い)はノイズ源に近いか、ノイズ源に対して平行か直交かによります。

以下のパターン例では、左側はゲート直近のパターンが出力に接近かつ平行な部分があります。右側はゲート直近のパターンが出力から遠くて平行な部分がありません。

モータと基板の配置を優先すれば左側の様なコネクタ位置が最適になる場合も多々あると思いますし、”L型” 配置の ”工夫した感” も理解できるのですが、可能な限り入力部から出力部を”I型”配置する事をお勧めします。

パターンレイアウトの注意点

ゲートには発振防止の抵抗を入れるのですが、パターンレイアウトによって効果が異なります。

前出の通り配線はノイズを伝搬するアンテナでもあります。

下図の上側はゲート直近に抵抗(オレンジ色の四角)を配置したパターンレイアウト、下側はゲートドライブ直近に抵抗を配置したパターンレイアウトです。

途中の配線が受信したノイズを黄色の矢印で表しています。

発振防止抵抗の配置

上側はノイズがゲートに流れ込む時に抵抗によって低減効果が得られますが、下側はノイズが直接ゲートに伝わり、抵抗は全く機能しません。

この様にパターンレイアウトは基板の性能に大きく影響します。

 

出前授業先で、基板を小さく作れば設計力が高いと言う風潮があったので釘を刺した事がありました。

電流容量にあった配線の太さ、必要な放熱パターン面積や入出力の分離に必要なサイズを見極めずに小さな基板を作れば、必ずトラブルが起こります。

適切な基板サイズを見極める為の要件を理解しましょう。

MOS-FETのしくみ(寄生容量)

半導体の寄生容量

半導体の寄生容量の説明の前に、コンデンサの構造を説明をします。

コンデンサ構造

誘電体を金属板(電極)でサンドイッチした構造がコンデンサです。

容量は金属板の面積に比例し、金属板の距離に反比例します。
これと同じ構造をした半導体ダイオードです。

ダイオードの構造

ダイオードの場合はPch半導体とNch半導体を金属板(電極)でサンドイッチした構造です。

半導体は誘電体として機能するのでコンデンサの機能を併せ持つことになります。

この構造によって出来上がたコンデンサの容量を寄生容量と言います。

ダイオードが逆方向に電流を流さないのは下図の様に空乏層ができて電荷の受け渡しができなくなるからです。

下図の赤色Pch、青色Nchの領域はそれぞれ電荷の移動が可能なので電極と同じと考えられます。

逆方向の電圧(逆バイアス)が高くなると空乏層が広がります。

これはコンデンサの金属板面積は変わらず金属板間距離が変わる事を意味します。

つまりダイオードは逆バイアスによって寄生容量が変わります。

容量は逆バイアス電圧が高くなると小さくなります(金属板距離に反比例)。

左:逆バイアス低 右:逆バイアス高

半導体は構造によって容量を持ち、印加電圧によって容量が変化する性質があります。

 

MOS-FETの構造

細かい所はなるべく省いてMOS-FETの構造を示します。

MOS-FETの構造

MOS-FETの寄生ダイオードも構造によって出来上がるものです。

MOS-FETの構造による寄生ダイオード

この様なD-S間の絶縁状態をゲート電圧によってPchの反転層を作る事で、電流が流せるようになります。

MOS-FETのON動作

ゲートドライブ側から見た寄生容量はGS間とGD間に発生します。

GS間の充電に伴ってPchの一部が徐々に反転層(Nch動作)に変わりますので容量の変化を伴います。

この容量はドレイン電圧による影響を受けます。

MOS-FETの寄生容量

ゲートドライブ

MOS-FETの寄生容量を充電するのには時間が掛かります。

ゲートドライブの電荷供給能力(Q)と寄生容量(C)によって電圧(V)が決まります。

VthからOFF状態がONに変わっていきます。

ドレイン電圧が0Vに達した時が完全なON状態です。

ゲートドライブが電荷を供給しているのに電圧が一定になっている期間があります。

これは、寄生容量が徐々に大きくなっている為です。

青色:ゲート電圧と橙色:ドレイン電圧(OFF→ON)

MOS-FETの主な損失(発熱の原因)はドレイン電圧の傾き部分で発生します。

この傾き期間を短くすれば損失を減らす事ができます。

実測するこんな感じになります。

オシロスコープによるゲート電圧、ドレイン電圧の観測

 

ちなみに電荷、容量、電圧の関係式を私はこれで覚えました。

給料は渋い

Q = C・V

 

レーザー加工機での試作材料

試作材料

バッテリーケースとバッテリーマネージメント基板との配線など、曲げた時の硬さや、実質的距離は3DCAD上で見るのは煩雑で、精度もあまりよくありません。

試作して様子を見るのが現実的だと思います。

基本的に厚さ2mmのアクリル板にて設計しているので、”安い・切削が早い・厚みが2mm”の試作材料があれば良いことになります。

 

発泡ポリスチレン

100円均一ショップで450×300×厚さ2mmのカラーボード5色という商品をみつけました。

色違いの板が5枚入っています。

beamoパラメータ

早さも申し分なく、ベクターデータ最高速の20mm/sです。

早速バッテリケースを試作しました。

発泡ポリスチレンを用いた試作

充電コネクタを収めるスペースも配線を通す切り欠きの大きさも良い感じです。

 

 

マインドストームEV3の後継機? その5 (制御性の高いロボット・走行評価に使用したプログラム)

制御性の良いロボットにするために

ロボットに慣性が働くので完全にプログラムの指令通りにロボットを動かす事はできないのですが、ある程度慣性の影響を小さくして思い通りに動かしやすい(制御性が高い)ロボットに仕上げる工夫はできます。

以下に気を使ってロボットを設計すると制御性の良いロボットに仕上がります。

〇高いギヤ比

〇摩擦ロスの低減

〇剛性

〇視野の広いセンサ

 

高いギヤ比

プログラムでロボットを停止させると電磁ブレーキが掛かります。

電磁ブレーキの効果はギヤ比の2乗に比例するので48:1を120:1に変更する事で6倍制動力が向上します。

 

摩擦ロスの低減

ベアリングを使用することで摩擦を極力少なくします。

 

剛性

ホイールを両支持構造にして駆動部の剛性をアップします。

 

視野の広いセンサ

ホワイトラインセンサは付属のフォトインタラプタよりも広い範囲を見ているので比例制御に必要な感度特性が得られます。

詳しくは、以下URLのセンサ評価方法を御参照下さい。

PID制御のパラメータ設定方法(限界感度法 ライントレース編) - 隠居エンジニアのものづくり (hatenablog.com)

 

走行評価に使用したプログラム

走行評価1回目4時間49分、2回目5時間1分(傾斜路を登る力を失って進行停止)ノーミスで走行したプログラムを公開します。

想像とは違って簡単なプログラムだと思ったのではないでしょうか?

制御性が悪いと直角コーナーをクリアできたり、できなかったりするので、条件分岐を追加してコースアウト防止策を行う事になりますが、制御性が良いと比例制御のみでノーミス走行が可能となります。

ちなみにこのロボットでギヤ比のみ48:1に戻して評価しましたが、直角コーナーにて時々制動力不足に起因するコースアウトがありました。

 

プログラムはCN3がホワイトラインセンサ左、CN4がホワイトラインセンサ右です。

C-Styleの変数は小数点を扱えないので、最後に10で割る事で小数点を表現します。

比例制御ゲイン"4"は ”0.4”を表しています。

C-Styleは0.1秒以下の待ち時間を作れないので、”Ccode”機能で10msの待ち時間を作って比例制御の制御間隔を設定しています。

C-Style印刷機能でPDF出力したリスト